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2018年12月10日 (月)

「景気対策で大気環境規制を緩和」推測報道の間違い 全国ではむしろ規制強化

 11月以降、「米中貿易摩擦のため、景気対策として大気環境規制を緩和している」という推測報道が相次いでいる。しかし全国範囲ではむしろ大気環境規制は強化されている。環境政策の流れを見誤って自社の環境対策を緩めてしまえば、容赦なく環境処罰されるため、中国進出日系企業は環境対応の継続的強化が不可欠である。

 

1.最近の中国大気環境規制の緩和報道

 11月以降、この種の報道が増えてきた。その主なものは次の通り。

 

11月>

中国で大気汚染が深刻化 米中貿易摩擦が影響か

https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000140760.html

米中貿易摩擦、北京の空に悪影響? 「黄色警報」発令も

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181115-00000011-asahi-int

北京で今週に深刻なスモッグ、「環境汚染規制緩和の影響」との指摘も

http://japanese.donga.com/List/3/03/27/1540050/1

北京、今冬最悪の大気汚染=米中摩擦も要因?

https://www.jiji.com/jc/article?k=2018111400917&g=int

 

12月>

中国、大気汚染の対策緩める

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181204-00000154-kyodonews-soci

中国、大気汚染の対策緩める 景気優先で早くも悪化

https://news.infoseek.co.jp/article/kyodo_kd-newspack-2018120401002621/

中国、「花より団子」環境規制を緩和して景気優先「大気汚染続く」

http://hisayoshi-katsumata-worldview.com/archives/14092853.html

中国、工場一斉休業見直し 環境保護より景気優先 規制緩和、大気汚染深刻に

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO38474010T01C18A2FF2000/

中国の広範囲で冬の大気汚染、79都市に警報=新華社

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181203-00000014-reut-cn

 

2.中国大気環境規制の緩和推測の根拠

 

 上記報道からすると、中国大気環境規制の緩和を推測する主な根拠は次の通り。

 

①京津冀秋冬季特別規制の削減目標の低下

②「一刀両断」的環境規制の厳禁

③その結果として11月の大気汚染は去年より悪化

 

3.それぞれの根拠の詳細と問題点

 

3-1.京津冀秋冬季特別規制の削減目標の低下

 秋冬季の臨時大気汚染規制は、秋冬季大気汚染総合対策攻略行動方案と呼ばれ、大気汚染の最もひどい京津冀(北京-天津-河北)周辺地区の2017年は「京津冀及び周辺地域20172018年秋冬季大気汚染総合対策攻略行動方案」、2018年は「京津冀及び周辺地域20182019年秋冬季大気汚染総合対策攻略行動方案」が公布されている。2017年版ではPM2.5濃度削減目標は15%、重度大気汚染日数削減目標は15%であり、2018年は共に3%に減少している。

 改善目標が15%→3%に減少した主な理由には、①限界コストの問題、②2017年は大気汚染防止行動計画の最終年であり、異様なラストスパートがあったが、2018年は青空保護戦行動計画の開始年であり、各地方政府のモチベーションが違う、③昨年は気象条件に恵まれたが、2018年は例年通りの気象条件であり、昨年比で言えば気象条件が悪化し、昨年レベルを維持するのも困難――というのが挙げられる。

 

3-2.「一刀両断」的環境規制の厳禁

 「一刀両断」(原文では「一刀切」)的環境規制とは、重度大気汚染警報が出されたとき、中央の環境査察チームが入ったときなどに、業種や環境対策の程度など無関係に、工場に生産停止を命ずる、ピークシフト生産(平日昼間の生産を禁止)の対象にする、建設工事の停止を命ずるというものである。これは国の方針に基づくものではない。

 これは環境対策へのインセンティブや経済的法則を無視し、世界次元でサプライチェーンを寸断し、工場の生産計画をムチャクチャにする、不合理で不適切な規制であった。現場からも不満の声が相次ぎ、日本の経済界からも中国国務院に対して善処を要望するなど、世界的な問題になっていた。

 2018年前半の時点で、中国政府はこのような「一刀両断」的環境規制を厳禁とし、もしまだ実施しているのを発見すれば地方行政を処罰すると通達を出した。

 このような「一刀両断」的環境規制の厳禁は、不適切なやり方を改め、ポイントを突いた効果的な規制に転換するものであり、「緩和」とは別であり、ましてや米中貿易摩擦とも無関係である。米中貿易摩擦があろうとなかろうと実施したものと思われる。

 

3-3.規制緩和の結果として11月の大気汚染は去年より悪化

 11月の大気汚染は昨年より悪化したのは事実であり、北京PM2.5濃度で見れば54%も悪化している。ただし、①大気環境改善のトレンド、②気象条件――を見る必要がある。

 大気環境改善のトレンドで見れば、11月の北京PM2.5濃度で見れば、ここ数年で今年は昨年に次いで2番目に低い。

201511月北京PM2.5濃度118µg/㎥ 

201611月北京PM2.5濃度100µg/㎥ 前年比15.3%減

201711月北京PM2.5濃度46µg/㎥ 前年比54%減

201811月北京PM2.5濃度71µg/㎥ 前年比54%増

 

 大気汚染における気象条件の寄与率は23割と言われている。昨年の大気環境改善は、昨年の気象条件が異常に良かったためであり、むしろ例外ととらえるのがよいであろう。

 

4.むしろ大気環境規制は強化される

 一刀両断規制を禁じたため、去年から大気汚染総合対策攻略行動を実施している京津冀周辺地域だけは緩和に感じると思われる。自社への生産停止指示も、サプライヤが生産停止して納入できなくなる事態も少なくなっている。

 ただし地域別には、京津冀周辺地域だけでなく、全国で大気汚染総合対策攻略行動を導入した。国家重点地域である長江デルタ(上海、江蘇、浙江、安徽)、汾渭平原(陝西、山西の一部)はもちろん、それ以外の広東省、四川省などでも幅広く実施することになった。これにより、昨年の京津冀レベルほどではないが、今年は京津冀以外の地域で大気汚染規制がかなり厳しくなったと感じられるはずである。

 これを感覚的にイメージ化したものが下図である。

20181210154400_2



 今までは製造業では生産工程やボイラに対する大気汚染規制がメインであったが、今年からは(社員)食堂油煙排出、非道路移動機械(エアコンプレッサ、フォークリフト等)排気ガス、非重点企業へのVOC規制など、よりきめ細かい大気環境規制を導入することになる。

 中国の環境規制への本気度は留まるところを知らず、例えば今年7月には天津市人民政府が、市内に約300ある工業団地・開発区・情報集積エリアのうち、環境対策で約1/3を取り潰すという通達を出した。

http://www.tj.xinhuanet.com/news/2018-07/07/c_1123091539.htm

 2018年には土壌汚染防止法を制定し、固形廃棄物環境汚染防止法を改定し、地方大気汚染防止条例を一斉に改定し、2020年までには国家大気・廃水総合排出基準を改定するなど、環境規制はますます強化・最適化される見込みである。地方でも行政機構改革が波及し、権限が強化された生態環境庁(局)が次々と発足している。

 したがって、環境規制の趨勢を正しくとらえて正しく対処し、「景気対策で大気環境規制を緩めているから自社の環境対策も緩めてよい」という間違った考えにとらわれず、環境対策を継続的に強化し、環境リスク対策を強化していくことが重要である。

以上

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