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2018年10月24日 (水)

この秋冬の大気環境規制の大幅強化 長江デルタも重点対象に

 2017年は大気汚染防止行動計画(大気十条)の最終年ということもあり、5年間の目標を達成するため、北京周辺28都市(華北地区大気汚染移動経路都市226都市、京津冀周辺地区)を最重点地域として、強硬な大気環境規制を実行した。中でも、大気汚染警報の発出期間や、中央環境査察及び大気汚染総合対策強化査察の査察団の常駐期間などに、地域の工場を一律で生産停止したり、建設工事を数ヶ月~半年停止させたりするなどの強硬策は、大気改善目標に貢献した一方で、地域の生産活動に大きな支障となった。環境対策をしっかり行っても生産停止の対象になるなど、産業界からは不合理であるとの指摘が多かった。

 

 2018年の大気汚染対策では、新たな青空保護戦勝利3年行動計画のもと、2017年と同様に「強化査察」と「秋冬攻略行動」の2段階で規制を強化している。

 

                                             
 

 
 

2017

 
 

2018

 
 

大本の計画

 
 

20139

 
 

大気汚染防止行動計画

 

(最終年ラストスパート)

 
 

20186

 
 

青空保護戦3年行動計画

 

(開始年)

 
 

年度計画

 
 

20172

 
 

京津冀周辺地区2017年大気汚染防止事業方案

 
 

 
 

(地方版のみ)

 
 

強化査察

 
 

20173

 
 

2017-2018年京津冀周辺地区大気汚染防止強化査察方案

 
 

20186

 
 

2018-2019年青空保護戦重点地区強化査察方案

 
 

攻略行動

 
 

20178

 
 

京津冀周辺地区2017-2018年秋冬大気汚染防止総合対策攻略行動方案(16査察)

 
 

20189

 
 

京津冀周辺地区2018-

 

2019年秋冬大気汚染防止総合対策攻略行動方案

 

 

 ただし、昨年とは次の点で大きく異なっている。

(1)一律の生産停止や工事停止等の「一刀両断」的措置を厳禁

(2)環境対策をしっかり行っている企業や環境負荷の小さい企業には環境規制優遇

(3)地理的範囲や分野は拡大し、きめ細かく規制する

 

 このうち、一般に環境対策をしっかり行っている日系企業にとっては、(1)(2)はありがたい方針である。大気汚染も改善傾向にあり、大気汚染警報の日数は減ると見込まれるため、昨年ほどの生産停止や工事停止はないものと思われる。一部のメディアでは、米中貿易戦争の影響もあり、経済成長確保のため、大気汚染規制を緩和するという報道もある。ただし同じ対策でも大気汚染改善の余地は次第に小さくなるため、緩和とは言えず、さらに(3)のため必ずしも甘くはない。

 

 「強化査察」では昨年、京津冀周辺地区に対して毎日大気汚染規制の立入検査を実施し、その結果を公表していたが、今年は京津冀周辺地区のみならず、汾渭平原(陝西省や山西省西部等)や長江デルタまで含まれる。なお珠江デルタは、大気環境改善が進んだため、最重点地域から除外された。

・第一フェーズ(2018611日~85):京津冀周辺「2+26」都市

・第二フェーズ(2018820日~1111):京津冀周辺「2+26」都市と汾渭平原11

・第三フェーズ(20181112日~2019428):京津冀周辺「2+26」都市、汾渭平原11市と長江デルタ31

 

 日系製造業が多く進出する長江デルタが、ついに1112日より大気「強化査察」を毎日受けることになる。その主な検査項目は次の通り。

・「散乱汚」企業整備状況:環境・品質・安全・エネ消費の面から基準順守を求める、「先停後治」、復活阻止

・工業企業環境問題対策状況:環境設備、VOC対策、無組織排出対策、大気特別排出規制値の適用、工業炉整備状況

・クリーン暖房、石炭代替、石炭ボイラ改善、苦情の多い環境問題

・輸送方式の転換、露天鉱山対策、砂埃対策、くずわら焼却規制

・ピークシフト生産、重度大気汚染緊急対応措置

 

 さらに大気総合対策「攻略行動」方案について、京津冀周辺地区版は927日に公布され、長江デルタ版は10月上旬にパブコメ版が公表された。長江デルタ版は101日より実施開始なのに、10月上旬になってようやくパブコメ版が公表されると時期的には合わないが、非常に重要な文書であるため、以下に長いが重要部分を記載する。

 

       
 

主要目標2018年大気質改善目標を全面達成。秋冬季期間(2018101日~2019331日)、長江デルタPM2.5平均濃度を前年同期比約5%低下させ、重度大気汚染日数を同比約5%減らす。

 
 

対象地域:上海市。江蘇省の南京市、無錫市、徐州市、常州市、蘇州市、南通市、連雲港市、淮安市、塩城市、揚州市、鎮江市、泰州市、宿遷市。浙江省の杭州市、寧波市、温州市、嘉興市、湖州市、紹興市、金華市、衢州市、舟山市、台州市、麗水市。安徽省の合肥市、馬鞍山市、蕪湖市、黄山市、池州市、六安市、宣城市、安慶市、銅陵市、淮南市、滁州市、阜陽市、亳州市、淮北市、蚌埠市、宿州市、計41の地級以上都市(つまり上海市、江蘇省、浙江省、安徽省の全域)

 
 

基本方針:産業構造・エネルギー構造・運輸構造・用地構造の調整・最適化を全面的に推進し、「分散・非規範・汚染」型企業の総合整備を深く実施し、化学工業・鉄鋼・建材等の過剰生産能力を削減し、石炭燃焼とバイオマスボイラの淘汰・整備を加速し、工業企業環境施設のグレードアップ改造を継続し、船舶・港湾汚染防止を強化し、VOC・工業炉・ディーゼル貨物車特定行動を実施し、重点時間帯地域共同対策を強化し、重大活動主催地及び周辺都市、主要輸送経路都市の大気汚染防止協力を強化し、重度大気汚染に効果的に対応し、秋冬季大気汚染総合対策攻略行動を深く推進する。

 
 

 重度汚染企業の移転改造事業を実施する。市街地重度汚染企業の移転改造、閉鎖撤退を加速し、201812月末前に、上海市は鉄鋼・化学工業・非鉄金属・鋳造・建材・製薬等重度汚染企業60社を含む産業構造調整事業を1000件終える。江蘇省は化学工業等産業の企業67社、浙江省は化学工業・鋳造・建材等産業の企業124社、安徽省は非鉄金属・鋳造・建材等産業の企業53社の移転・改造をそれぞれ終える。移転、生産能力の買収・置換等を行う全ての鉄鋼精錬事業は、原則として沿海地域でのみ計画・実施できる。

 

 化学工業団地と化学工業企業の総合整備を強化する。長江主流と主な支流の川沿いから1km以内で化学工業団地と化学工業企業の新設を厳禁とする。化学工業団地の新設を禁じ、既存の化学工業団地に対し、分類別整理統合、改造・グレードアップ、生産削減・淘汰を行う。201812月末前に、上海市は化学工業団地整備行動特定方案を打ち出し、金山地区環境総合改善行動方案と事業リストを策定する。江蘇省は化学工業企業の「閉鎖・移転・グレードアップ・再編特定行動」を実施し、化学工業企業整備事業を1893件終える。浙江省は化学工業整備事業77件と化学工業団地5ヵ所の総合整備を完成し、安徽省は化学工業団地10ヵ所の総合整備を完成する。

 

 VOC総合対策特定行動を実施する。重点産業VOC排出総量規制を実施し、産業別にVOC排出総量・削減量を定め、年度目標である10%以上の年度排出削減目標を達成する。

 

 上海市は、化学工業・包装印刷・家具・完成車製造・自動車部品製造等の産業でのVOC対策グレードアップ改造を重点的に推進し、300社以上の対策を終える。江蘇省は、石油化学・化学工業・ゴム・工業塗装・包装印刷・飲食油煙・自動車修理産業等でのVOC総合対策を終え、5000社以上の対策を終える。浙江省は、靴製造・紡績染色・木板加工等のVOC総合対策を重点に進め、工業悪臭対策、汚水処理場脱臭対策を継続し、1500社以上で対策を終える。安徽省は、石油化学・化学工業・プラスチック・工業塗装・包装印刷・飲食産業等のVOC総合対策を重点的に進め、554社で対策を終える。

 

 低VOC含有型有機溶剤製品を大々的に普及させる。高VOC含有量の有機溶剤型の塗料・インキ・接着剤等を生産・利用する事業の新設・改造・拡張を禁ずる。工業・建築・自動車修理等での低(無)VOC含有型の原材料・補助材料と製品の使用を積極的に推進する。201911日から、自動車用塗料、木製品用塗料、工程機械塗料、工業防腐塗料の使用可能状態でのVOC含有量の規制値を、それぞれ580g/L600 g/L550 g/L550 g/Lとする。自動車修理塗料は全て、使用可能状態でのVOC含有量を450g/L、そのうち下塗り塗料と上塗り面塗料は420g/Lとする。

 

 VOC無組織排出規制を強化する。工業企業VOC無組織排出の徹底調査を行い、これには工程プロセス無組織排出、動的・固定密封点の漏洩、保存・積替え時の散逸排出、廃水・廃液・残渣の散逸排出等を含む。201810月末前に、各地で重点産業VOC無組織排出改造の全範囲リストを作成し、VOC排出無組織排出対策を加速する。

 

 工程プロセスの無組織排出規制を強化する。VOC型資材は密封保存缶または密封容器に保管し、密封管または密封容器で輸送する。遠心分離、ろ過ユニット操作には密封式遠心分離機、圧縮ろ過器等を利用し、乾燥ユニットには密封乾燥設備を利用し、設備排出口から出るVOCは収集処理し、反応排ガス、蒸留装置非凝縮廃ガス等の工程廃ガス、及び工程容器の換気、送風、真空排気等では収集処理を行う。

 

 LDAR(漏洩検知・修理)制度を全面的に推進する。ポンプ、コンプレッサ、バルブ、フランジ、その他連結部品等の動的・固定密封点の漏洩を測定し、台帳を作成する。台帳には測定時間、測定機器の数値、修理時間、修理後の測定機器の数値等を記録する。

 

 保存・積替え時の散逸排出規制を強化する。実蒸気圧が76.6kPa以上の揮発性有機液体の保存には低圧タンクや加圧タンクを用い、実蒸気圧が5.2kPa以上76.6kPa未満での保存タンクにはフローティングタンクやVOC収集処理装置のある固定頭部タンクを用いる。このうち、内部浮屋根式タンクには液浸透式密封、機械式靴型密封等の高密封効率の方式を採用し、外部浮屋根式タンクには2重密封を採用する。有機液体の積替えには、上部浸出式または底部設置式を採用し、設置施設には廃ガス収集処理システムまたは気相平衡システムを設置する。

 

 廃水・廃液・残渣システムの散逸排出対策を強化する。VOCを含む廃水輸送システムでは、安全性を確保した上で、空気と隔離する措置を講じる。VOCを含む廃水処理施設は蓋をつけて密閉し、排ガスはVOC処理施設に送り、廃水・廃液・残渣を処理・移転・保管する容器は密封する。

 

 汚染処理施設のグレードアップ改造を推進する。201810月末前に、各地は工業企業VOC汚染処理施設に対し汚染処理効果の取締り検査を実施する。安定的に基準順守できない簡易処理工程に対しては、企業に期限内改造を促す。企業は多種技術を用いてVOC対策効率を高めるよう奨励する。低温プラズマ技術、光触媒技術は、低濃度の有機廃ガスや悪臭ガスの処理にのみ適用する。活性炭吸着技術を採用する場合、脱着工程を設置するか、定期的に活性炭を交換するものとする。

 

 統一的な環境管理政策を実施する。地域で統一したVOC規制技術規範体系を構築するよう模索し、これにはVOC排出算定方法、石油化学・化学工業・塗装・印刷・製薬・電子・染色など重点産業に特化したVOC排出基準、低VOC塗料製品基準、塗料・インキ等グリーン製品基準、使用過程自動車・船舶・非道路移動用機械の排出管理基準を含む。

 

 各地で適したやり方で重汚染型都市工業企業のピークシフト生産を推進する。2017年秋冬季PM2.5濃度が70μg/㎥以上であった都市は、鉄鋼・建材・コークス・鋳造・非鉄金属・化学工業等の高排出産業に対し、201811月~20192月に区分別ピークシフト生産を実施する。月別大気環境質予測結果に基づき、ピークシフト生産の期間を適切に短縮・延長する。

 

 「一刀両断的措置」を厳しく禁じる。各種汚染物が安定的に排出基準を順守していない、汚染排出許可管理要求を満たしていない、期限内に20182019年秋冬季大気汚染総合対策改造任務を終えていない場合、ピークシフト生産措置を全面的に導入する。『産業構造調整指導リスト』の制限類に該当する場合、生産制限の割合を高めるか、生産停止を行う。産業内で汚染排出パフォーマンスレベルが同業他社より顕著に良好である環境模範企業は、リソースの保障を前提に、生産制限を免除できる。

 

 各省市は、重点産業区分別ピークシフト生産のパフォーマンス評価指導意見を作成する。各都市は、ピークシフト生産実施方案を策定し、企業の生産ライン、プロセス、施設まで落とし込み、具体的安全生産措置を定める。

 

 多量資材のピークシフト運輸を実施する。各地はピークシフト運輸方案を策定し、重度大気汚染緊急対応プランに盛り込み、オレンジ警報以上の重度大気汚染警報期間と重点時間帯には、原則として大型貨物車の工場への出入りを禁ずる。重点企業・事業者は、車両出入り口に監視カメラを設置し、監視記録を3ヶ月以上保存し、秋冬季期間は全ディーゼル貨物車の出入りの状況を記録し、2019430日まで保管する。

 

 

 日系企業の今後の対応としては、大気「強化査察」方案や、京津冀周辺版と長江デルタ版の大気総合対策「攻略行動」方案を早急に確認し、自社の実態を把握してこれらの方案の自社適合状況を検査し、具体的対応策を検討、実行していく必要がある。

 

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