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2018年1月15日 (月)

2017年12月から2018年1月における中国環境規制の大きな進展

1.年末年始にかけての中国環境規制の進展の概要

 

201712月から20181月にかけて、中国環境規制で大きな進展があった。一般に年末年始頃に公布・公表される政策制度や法令通達が多い傾向にある。

 

例えば201712月後半に公布された環境分野の国家標準・業界標準は44件もある。標準ではないが、注目度の高い法令制度には、環境保護税法実施条例、全国GHG(温室効果ガス)排出権取引市場構築方案、生態環境損害賠償制度改革方案、職業病防止法(改定)などがある。

 

2.環境保護税の注意点

 

環境保護税については、当ブログで解説したので概要を省略するが、すでに201811日より施行され、初回(1月~3)の納税申告・支払が41日~15日となっている。

 

下位法令として、環境保護税法実施条例、各省級政府の地方税額方案、「汚染物排出量計算の汚染排出係数・物質収支方法の公布に関する公告」が出されている。今後、さらに環境保護税税務申告書などが整備されるものと思われる。

 

環境保護税法の注意点

・前身の汚染排出費制度は廃止となるが、201712月末までの汚染排出費は支払わなければならない。

VOC単独の汚染排出費制度も廃止となり、環境保護税制度でも当面引き継がれない(いずれ導入される見込み)。

・地方の環境保護税税額に要注意、主に低中高の3ランクからなる。①低ランク:遼寧、吉林、浙江、福建、安徽等12省、②中ランク:山東、広東、湖北、重慶、四川等12省、③高ランク:北京、天津、河北、上海、江蘇等6

・企業側がエビデンスを付けて排出量と自社で計算した環境保護税額を申告・納税する(排出費と比べて手間が増える)

・特に留意すべき点としては排出量の確定方法である。環境保護省は、オンラインモニタリングを導入していない企業の係数法・マテバラ法について、約550ページにわたる計算方法文書を公表している。

・対象期間終了から申告納税期間終了までわずか半月しかないため、前もって準備を進める。

 

なお前身の汚染排出費制度の時から、人によっては罰金であると説明しているが、汚染排出費も環境保護税も罰金ではない。何らかの法令や基準に違反したから支払わなければならないわけではない。

 

3.温室効果ガス排出権取引市場構築で留意すべきは地方実証制度

 

国家発展改革委員会は20171218日、「全国GHG(温室効果ガス)排出権取引市場構築方案(発電産業)」を公布した。遅れに遅れて、また対象産業を大幅に絞り込んで(8産業→3産業→1産業)、ようやく2017年末前の全国GHG排出権取引制度立上げが実現し、「2017年中の立上げ」という絶対指令を何とか守った。それでも1700社、約30億トンの排出量が対象となり、EU取引市場規模を上回る。

 

日本の報道では、日系企業にも影響があること等が指摘されている。日系企業への影響で言えば、全国GHG排出権取引市場構築は直ちに影響するわけではない。GHG年間排出量2.6万トン(エネルギー消費石炭換算1万トン相当)以上の一定規模以上の発電企業(自家発電含む)のみが対象であり、中国の発電企業に投資・納品している一部日系企業等には影響が出るであろうが、中国内日系製造業に幅広い影響があるとは言えない。対象業種が拡大すれば、当然日系製造業も対象になり得るが、まだ当面時間がかかる見込みである(1産業でも膨大な準備時間がかかった)

 

中国GHG排出権取引で日系製造業が留意すべき点は、むしろ地方GHG排出権取引実証事業の拡大である。これまで北京、天津、上海、広東、深センなど7地域で地方GHG排出権取引実証事業を推進し、対象企業リストに日系企業が70社以上入っていたが、この7地域を拡大する見込みである。福建省ではすでに約300社が対象となり、江蘇省、浙江省、四川省でも準備が進められている。既存7地域でも対象企業リストを毎年更新・追加している。日系製造業がこれら地方版制度に新たに加わる可能性は高いと言える。

 

CO2対策では、省エネ量取引制度、エネルギー使用権取引制度、炭素税(予定)など類似制度が乱立しており、今後どのように統合するのか注意が必要である。国家発展改革委系の研究者は、制度乱立に関する私の質問に対し、取引制度による環境・GHG対策は制度が複雑になり過ぎて困難であるとして、炭素税のようなシンプルな制度にすべきとの個人的見解を示している。

 

4.北京の大気汚染防止目標達成と全国大気汚染防止行動計画第2フェーズ

 

2013年公布の大気汚染防止行動計画では、最終年である2017年の大気改善目標を定めており、中でも北京のPM2.5年間平均濃度を60μg/m3に下げるという厳しい目標を定めた。2016年は73μg/m3であり、それまでの削減率から類推すると2017年の最終目標達成はかなり厳しいと思われた。

 

しかし結論から言えば、この目標は達成し(58μg/m3)、北京とその周辺では青空が大幅に増えた。2013年よりPM2.5年間平均濃度は35.6%減少し、大気汚染警報で工場操業制限や交通制限が発令されるのも減った。北京に住む者として、また高校時代からの環境主義者として、北京の大気環境改善は喜ばしいことである。ただし手放しで喜べるわけでもない。第一に、大気汚染状況は気象条件に左右されることが多く、2017年後半、特に秋冬にかけては気圧配置など気象条件に比較的恵まれており、運が良かったとも言える。第二に、特に2017年の北京周辺地区(いわゆる226都市)の大気環境規制は極めて厳しく、現場の実情を無視した強硬策などで住民生活や生産活動にも悪影響を及ぼしていた。環境改善は、健康で文化的な最低限度の生活と健全な経済活動を保障した前提でないと、持続的で健全とは言えない。その意味では改善の余地は大きいと言える。

 

大気汚染防止行動計画は201712月末で終了し、これに付随する形で公布された大気汚染取締りや秋冬季臨時大気汚染規制方案(工事停止、輪番生産停止、VOC・粉塵の厳格規制等含む)3月で一旦終了する。目下の注目点は、2018年以降も大気汚染防止行動計画第2フェーズを策定・実行するのかという点であろう。結論から言えば、大気汚染防止行動計画第2フェーズを実行する可能性が高い。正式決定はまだであるが、政府系のシンクタンク・専門家からは第2フェーズが提言されている。環境保護省は大気汚染防止行動計画(1フェーズ)を評価総括した上で上位部門(党中央や国務院)に指示を仰ぐと慎重な表現に留めている。また地方版の大気汚染防止行動計画も2018年以降のものが続々と検討されている(北京、河北、四川等ですでに動きあり)

 

5.中央環境査察は今後どうなるのか

 

2016年~2017年、中央環境査察が全国を一巡し、その破壊力は凄まじかった(詳細は以前のブログ記事参照)。最終結果として、この査察により、受理した住民からの陳情・告発案件は計13.5万件余、立件処罰は2.9万社、罰金額は14.3億元、立件調査は1518件、拘留者は1527人であり、党政府の指導者や幹部18448人を行政指導し、責任追及者数は18199人となった。

 

さて今後の焦点は、この中央環境査察は今後どうなるのかということであろう。国家環境査察弁公室は今後の方針の見通しを次の通り挙げている。

 

・第一次環境査察の状況を整理し、経験を取りまとめ、不足点を洗い出し、査察メカニズムを整備し、今後の査察に向け準備を行う。

・環境査察の法規制度構築を検討推進し、徐々に環境保護査察を法制化・規範化の道に乗せる。

2018年に第一次環境査察状況の「振り返り」を行うよう検討し、汚染防止攻略戦の重点任務について、重点地域の大気汚染、重点都市の悪臭水域汚染、住民の生活・生産活動に影響する深刻な環境問題に対象を絞り、機動的でポイントを絞った特定査察を実施する。

・地方が省級環境査察体系を構築するよう積極的に指導し、国による省の監督、省による市・県の監督という中央と省の2段階査察体制メカニズムを実現し、査察の連動的効果を発揮させる。

 

つまり、正式決定はまだであるが、2018年から中央環境査察の二巡目を行うと予想される。また法制化(現在の規則は非公開)、省級地方版環境査察の導入も進めるということで、手綱を緩めるどころかさらに厳格にする方針であると読み取れる。

 

一方で、環境査察による弊害も数多く表面化し、また不条理な規制への改善の動きもみられる。例えば査察チームの来訪後、その地域全体の工場を生産停止させる、環境対策をいくらしっかりやっても周辺住民のわずかな苦情(臭い、騒音、湯気等)で生産停止や移転を命じられる、大気汚染警報時に一刀両断的に生産停止を命じられるなどである。現場役人も、環境管理を理解しておらず、不条理な規制・取締りを行うことがあるが、産業界からの苦情もあり、改善の動きもみられ、例えば行政・住民・企業の三者会談実施、大気汚染警報時の区分別生産規制導入などが進む。また江蘇省太湖流域水汚染防止条例の改定作業中であるが、一刀両断的に製造業を規制するのではなく、汚染の少ない戦略的新興産業などに例外規定を設けるのを検討している。

 

6.今後の環境政策を検討する上で重要な政策文書

 

最近、生態環境損害賠償制度、河川長・湖長、生態補償、環境保護税改革など大きな環境制度が次々に繰り出されている。一見バラバラで不規則に出されているように見えるが、実は重要な環境政策方針の下に進められている改革なのである。特に重要な環境政策方針とは、①党中央の生態文明建設関連文書と第19回全国代表大会報告、②国務院の第13次五ヵ年省エネ排出削減総合事業方案と個別環境行動計画、③全人代の第13次五ヵ年計画綱要、④中央経済工作会議、⑤省庁別の環境第13次五ヵ年計画である。これら政策文書から、今後の中国環境規制の方向性を体系的に読み解くことができる。詳細は、当社の中国環境規制実務対応セミナー(22回中上級編)にて説明する予定である。

http://www.jcesc.com/seminar21-22.html#22

 

7.環境重点企業リストについて

 

上海市環境保護局は20171229日付で「上海市2018年重点汚染排出事業者リスト」を公布した(公表日は15日)が、その意義が分からないとの声もある。このような重点環境企業リストを見る際に重要なのは、上位法令が何かということである。環境規制実務で重要なのは、断片的理解ではなく体系的理解である(断片的解説しかしない人が大半)。環境分野の重点企業リストは、いくつも存在する。代表的なものは、重点汚染排出事業者リスト、環境重点監視企業リスト、重点エネ利用事業者リストの3つであるが、他にもGHG排出規制企業リスト、大気汚染警報時生産停止・制限企業リスト、クリーナープロダクション強制審査企業リスト、土壌環境重点監督管理企業リストなど非常に多い。それぞれ上位法令で重点企業リストを規定しており、上位法が分からないと、当該企業は何をすればよいのかわからないのである。これについても、当社環境セミナー、コンサル・顧問業務の中で解説している。

 

「上海市2018年重点汚染排出事業者リスト」

http://www.sohu.com/a/215620822_808781

 

(宣伝)弊社では中国環境規制に関して、顧問業務、法令調査、コンサル、情報サービス、環境順法状況の現場診断監査、社内セミナー講師派遣、弊社主催セミナー開催などにより、日系企業をサポートさせて頂いております。お気軽にご相談下さい。

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