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2017年10月 3日 (火)

この秋冬、中国で強烈な環境規制が導入 生産停止が続出

もともと103日、4日に都内で中国環境規制セミナーを開催して、中国環境規制の最新情勢をお伝えする予定であったが、外国人就労許可制度の変更に伴う更新手続きに想定以上に時間がかかり、元のセミナーの日程までの帰国が不可能になった。このためセミナーは20182月下旬に延期とさせて頂いた。

(セミナー案内ページ)

http://www.jcesc.com/seminar21-22.html

そこで、このセミナーで取り上げる予定であった、この秋冬の強烈な中国環境規制について、本ブログで簡単にまとめたい。

この秋冬の強烈な中国環境規制には、大きく2つの流れがある。第一に環境取締りの強化、第二に『大気汚染防止行動計画』最終年のラストスパートである。

 

第一の流れ:異次元の環境取締りの強化

 

環境取締りの強化は今までにも行われており、例えば201511日施行の環境保護法では、日数罰金制度、閉鎖差押え、生産停止改善、行政拘留、公益訴訟が盛り込まれた。更には「約談」(行政指導)、環境モニタリング/発生源モニタリングの強化、最近中国でよく導入されている採点評価手法を導入した危険廃棄物取締り制度など枚挙にいとまがない。これら環境処罰件数はうなぎ上りに増えている。振り返れば2005年頃、当時の国家環境保護総局の潘岳副局長が主導した環境アセス取締りの嵐、区域・流域認可制限(原文;限批)制度、グリーンGDP等も印象深かった。

 

しかし2016年後半から本格化した「中央環境査察」の破壊力は、かつて例がないほどすさまじい。なにせ中国共産党中央委員会(いわゆる党中央)と国務院が主導するため、地方環境当局にとっては逃げ場がない。今までは中央や地方の環境行政が取締りを主導していたが、この「中央環境査察」では中国権力構造の最上位が主導しており、その破壊力は異次元レベルである。

 

例えば、今までは工場で何らかの環境法令違反が判明したとしても、地元の環境保護局は、地方経済への貢献、税収、失業率、行政側の失態追及回避等を考え、見て見ぬふりをしていた、あるいは接待や袖の下を受けて見て見ぬふりをしていた(罰則軽減も含む)わけであるが、中央査察ではそれが一切通用しないどころか、過去の問題点を追及されて処罰された地方環境役人が続出し、その数は1万人を超えた。

 

中国内日系企業でも、2016年後半から地方当局の態度が強硬に杓子定規的に変わったという事例が多いが、それはこのような背景に起因している。

 

またこの「中央環境査察」も予兆はあった。2012年第18回党大会で「五位一体」(経済建設、政治建設、文化建設、社会建設、生態文明建設)が打ち出され、20157月に党中央全面改革深化指導小組が「環境保護査察方案(試行)」を可決、翌年から「中央環境査察」がスタートした。

 

中央環境査察チームは1期ごとに78(直轄市等含む)に派遣され、第4期が20178月に始まりこれで全国を一巡することになる。この第4期では、吉林、浙江、山東、海南、四川、チベット、青海、新疆が対象となる。一般からの環境苦情を受け付け、さらに査察チーム自ら工場への立入検査も行っている。

 

中央環境査察では、取締りや処罰をやりっ放しにせず、省別に膨大な改善ノルマリストを作成・公開し、改善状況も逐一チェックしている。

 

この中央環境査察は一過性の措置ではなく、「環境保護査察方案(試行)」により党内で制度化されている(非公開)。つまり今後ずっと続くのであり、今年や来年で終わるものではなく、企業側としても今後恒常的に対応する必要がある。さらにこの環境査察は、中央だけでなく、省レベルでも広がっており、細かい地方にまで浸透しつつある。

 

それでも「上に政策あれば下に対策あり」で査察逃れも若干存在する。例えば査察チームの進駐後、一部地方政府は地域の工場を全て臨時操業停止にして問題が発覚しないようにする例もある。ただ徐々に包囲網が厳しくきめ細かくなっており、いずれ査察逃れもほとんどなくなると思われる。

 

その成果として、すさまじい数の環境対策不十分な企業を生産停止に追い込み(立入検査企業の約2/3で法令違反が判明)、それまで国際社会から批判されてきた中国の生産能力過剰問題が瞬く間に解決したばかりか、逆に世界市場での原材料製品の供給不足や価格高騰を引き起こすまでになった。価格高騰は、需給バランス要因のほか、企業の環境対策投資が進んだことも要因である。今の中国では、「環境対策のためには、GDP影響、失業率、税収など関係ない」という本気の環境規制が進んでいるといえる。

 

第二の流れ:『大気汚染防止行動計画』最終年のラストスパート

 

中国では20131月より新たな大気環境モニタリング体制がスタートし、北京等でPM2.5等を測定・公表するとその数値が極めて高く、大気汚染騒動が勃発、発足間もない習近平政権は20139月『大気汚染防止行動計画』を策定した。大気汚染対策は一定の成果を挙げ、各地で大気汚染は改善した。しかし京津冀(北京-天津-河北)において、それまでのペースでは『大気汚染防止行動計画』で示された最終年である2017年の改善目標の達成が難しいとされ、強硬な大気汚染対策を導入した。具体的には20167月『京津冀大気汚染防止強化措置(20162017年)』を公布、さらに20178月『京津冀及び周辺地区2017年~2018年秋冬季大気汚染総合対策強硬行動方案』(及びその下位政策6)を公布した。

 

この大気環境対策はあまりにも強硬なため、この秋から来春にかけて、京津冀及び周辺地区、特に大気汚染経路都市「226」ではほとんど製造業の工場稼働や工事ができないほどである。

 

※大気汚染経路都市「226」は、北京、天津、河北省の石家荘、唐山、廊坊、保定、滄州、衡水、邢台、邯鄲、山西省の太原、陽泉、長治、晋城、山東省の済南、淄博、済寧、徳州、聊城、濱州、菏澤、河南省の鄭州、開封、安陽、鶴壁、新郷、焦作、濮陽の計28都市を指す。

 

この『強硬行動方案』の製造業に係る具体的措置は次の通り。

・「散乱汚」(分散・非規範・汚染)型企業/クラスタの総合取締り

・バラ石炭汚染総合対策、石炭ボイラ対策

 →石炭を使用している工場は取締り対象

・工業企業の無組織排出管理(粉塵、砂埃対策)

 →頻繁な水撒き、土の部分のコンクリート化、緑化等

・工事現場の砂埃対策

 →工事現場を巨大プレハブで囲み監視カメラを設置

 ()北京の地下鉄工事現場では巨大プレハブで完全包囲

 →それ以外では、北京は4ヵ月、天津は6ヶ月工事禁止

・重点産業向け排出許可証の発行

・移動汚染源厳格規制(トラック、工事機械含む)

 →物流網が寸断

 →エアコンプレッサ、フォークリフト等も要注意

・工業企業ピークシフト生産/輸送

 →夜や休日に生産/輸送を行う

・重点分野VOC対策

 →有機溶剤対策、LDAR、工場建屋・設備の密閉化、原料代替

 →社内食堂の廃ガス対策も要注意

・排ガス自動監視の全網羅

 →発生源モニタリング、工場境界部大気濃度モニタリング、工業団地大気濃度モニタリング

・重度大気汚染警報対応

 →大気汚染警報が出れば生産停止/制限やトラック走行停止

 →大気汚染警報時の排出量を削減

                                                 
 

警報

 
 

SO2

 
 

NOx

 
 

PM

 
 

VOC

 
 

青色

 
 

 

 
 

 

 
 

5%

 
 

5%

 
 

黄色

 
 

10%

 
 

20%

 
 

30%

 
 

10%

 
 

橙色

 
 

10%

 
 

20%

 
 

30%

 
 

15%

 
 

赤色

 
 

10%

 
 

20%

 
 

30%

 
 

20%

 

・中央環境特定査察(前述の通り)

 

河北省廊坊市の事例

 

筆者は915日、ジェトロ北京と廊坊市日本人会との共催による中国環境規制セミナーにて講師を務めた。その際に、強硬な大気環境規制の実状を視察した。その中で印象に残った内容は次の通り。

 

①市内路線バスは秋~冬に完全無料化

 →マイカー利用を控えるための措置

②霧吹き車が頻繁に大通りを行き来

③廊坊市外トラックを進入禁止

④毎日立入検査

⑤工場内に監視カメラとモニタリング機器を設置

⑥工場建屋の密閉(換気扇含む)と印刷設備の密閉の二重密閉指導あり

VOC処理装置の設置指示

⑧工事の禁止

 

印象としては、わずかな砂埃も許さない、わずかなVOC排出も許さないという感じである。

 

日系企業への影響 大きな経営リスクに

 

このような厳しい環境規制により、現地日系企業にも次のような影響が出ている。

 

①環境罰金(罰金だけで解決するわけではなく、設備改善まで必要)

②法令違反が見つかり改善するまで生産停止

※日系企業でも環境法令違反は多い

③汚染型工程の運行停止指示を受け、外注先探しを行うもリスク有り

④サプライヤーが生産停止になり、調達が困難に

⑤大気汚染警報が出れば、工場稼働も物流もストップし、納期に間に合わない

⑥工事ができず、生産ラインの改造・拡張が停止

⑦日本人経営者が帰国できなくなる

⑧上記の各種コスト増により経営環境が悪化

 

環境規制は、日系企業だけを狙い撃ちしているという指摘もあるが、これは正確ではない。環境処罰企業の圧倒的多数は中国資本企業であり、日系企業は約23%程度である。実際に韓国資本企業が中国環境規制で撤退に追い込まれた事例が続出しているほか、欧米自動車工場の中国内サプライチェーンも寸断されて経営難に陥っている事例も見られるようになった。

 

中国、超強力環境取り締まり…廃業する韓国企業続出(1)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170921-00000021-cnippou-kr

中国、超強力環境取り締まり…廃業する韓国企業続出(2)

http://japanese.joins.com/article/674/233674.html

中国の車部品工場、環境規制で操業停止 GM・VW車に影響も

https://www.nikkei.com/article/DGXLZO21337210Q7A920C1FFE000/

中国が大型プロジェクトを中止へ、環境汚染が深刻な地域対象に

https://jp.reuters.com/article/china-pollution-idJPKCN1BW0DJ

 

2018年以降も新たな環境規制が続々登場

 

中国は2018年以降も新たな環境規制を続々打ち出している。主なものは次の通り。

①改正水汚染防止法の施行(201811日より)

②環境保護税法の施行(201811日より)

③新たな汚染排出許可証制度の導入(2017年より業種別に推進)

④土壌汚染防止法の制定(2018年頃?)

⑤各種排出基準の制定・改定・強化

⑥発生源モニタリング・排出口整備の推進(2017年より業種別に推進)

⑦環境アセス-環境検収制度の大改革(2016年より推進)

⑧環境各分野の第13次五ヵ年計画(2017年より続々公布)

 

この秋冬の厳しい大気環境規制を乗り切っても、その後も新たな環境規制が待ったなしで続々導入される。中国での日系企業環境対策は恒常的に強化しなければ生き残れないであろう。

 

旧態依然とした本社側の認識

 

このように強烈な環境規制・取締りが導入され、環境規制がすでに大きな経営リスクになっているにもかかわらず、本社側の認識が甘いというケースが多い。代表事例は次の通り

①「中国では汚染を垂れ流しており、環境規制はザルである」という昔のイメージのまま

 中国の公害は日本よりひどいため、工場の環境規制は甘いと誤解されている。今でも汚染垂れ流し事例は根絶できていないが、都市部では激減しており、主に事故や環境設備の故障に起因している。故意による汚染垂れ流しは環境汚染罪という刑法上の犯罪に相当し、その法人代表者は実刑判決を受けている。

②「問題があれば市政府の幹部を接待等して解決できる」という昔のやり方にこだわっている

 腐敗・汚職撲滅は徹底しており、行政側も応じなくなってきている。杓子定規的に法令を適用しないと、役人も地位が危ない。正規のルートで、理詰めで交渉するのは構わない。

③「日本の工場環境対策は中国より進んでおり中国の環境規制を楽にクリアできる」と思い込んでいる

 中国の環境規制の特殊性や企業環境管理の現場を理解していない。

 

日系企業のあるべき対応

 

①全社挙げての取り組み

②中国の環境規制を侮らずしっかり研究し、先を読んで対策を立てる

③過剰とも思えるぐらいの徹底した中国環境規制対応を行う

④サプライチェーン全体で環境規制対応を検討する

⑤戦略・情報・監査等面で、中国環境規制に詳しい専門家を活用

 

※中国環境規制の把握・対応には必ず原文全文や法体系を読み込む必要があるが、これらを把握できていないのに中国環境コンサル業務を行っているケースもあるので、第三者環境コンサル会社もしっかり検討する必要がある。

 

日系製造業には、これらを踏まえてこの秋冬の中国、特に京津冀及び周辺地区の厳しい環境規制をクリアして発展して頂きたい。この環境規制には、日系企業も対応に苦しんでいるが、中国資本企業はもっと悲惨な状況に追い込まれており、対応をしっかり行えるようになれば、中国内の競合他社は激減し、廃業にならなくても彼らの価格競争力は低下するようになるため、相対的には日系の経営環境はむしろ改善すると思われる。

 

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コメント

大野木さん、大変良い分析です。完全同意です。👍👍👍

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